京橋の「ユートピア白玉温泉」(大阪市城東区蒲生2)の玄関先に巣作りしていたツバメのひなが巣立った。
「コロナで大変なこのタイミングで巣立っていくツバメに元気づけられた」と話すのは、同浴場を経営する白玉産業の社長・北出守さん(59)。ツバメが巣を作るようになったのは2017(平成29)年春。前年の暮れに母・初枝さんが亡くなって3ケ月たった頃だった。「母が帰ってきたようだと皆で話していた」という。それから毎年3月になると巣作りに戻ってきていたが、今年はなかなか現れなかった。
「コロナの影響で今年は来ないのでは」とお客からも冗談交じりにささやかれていたが、3月下旬になってようやく1羽がやってきた。例年なら雄雌つがいで来るのに今年はなぜか1羽。「やっぱりコロナの影響でいつもと違うのでは」と話題になっていた4月中旬、もう1羽が現れ、ようやく卵を産んだ。北出さんは「母が(コロナで大変な自分たちを)見守りに来てくれたと思った」と言う。
同浴場は、北出さんの両親が1966(昭和41)年に銭湯「白玉湯」を開業したのが始まり。「両親は石川県出身で、地元の人脈で大阪の銭湯で奉公していた。当時は独立して夫婦で銭湯を始めることが珍しくなかった」と言う。1997(平成9)年に北出さんが父・弘志さんを継いで2代目当主となった。近年は「銭湯離れ」が進む中、「銭湯ポスター総選挙」や「ランナーの荷物預かり」などさまざまな取り組みを行ってきた。今年の秋には宿泊施設を伴う大規模改修計画があったが、新型コロナの影響で状況は一転した。
深刻な事態の中、北出さんは秋に行う予定だったリニューアルの規模を縮小して、コロナの感染が拡大した3月から5月に工事を行った。宿泊施設は取りやめ、サウナと脱衣所を改修。「ピンチをチャンスに変えようと、とにかく必死だった」。その最中に玄関先のツバメの4つの卵がふ化し、ひなの鳴き声が聞こえてきた。
先週、ついにひなたちが巣から飛び始めた。「温泉の前を乱舞するツバメの姿に勇気づけられ、頑張らないといけないと強く思った」と北出さん。思いは両親へはせる。「両親が育った石川の村では、冬をじっと堪えて雪解けを待つと聞いた。今は必死に頑張り、じっと耐える時」と話す。
営業時間は6時~翌1時。