京橋のたこ焼き居酒屋「美輝」(大阪市都島区片町2)の店主・鈴木郁子さん(著者名=西村郁子さん)の小説「ウロボロスの亀」が今年上半期同人雑誌優秀作に選ばれ、11月1日発行の「文學界」(文藝春秋)に掲載されている。
鈴木さんが趣味として小説を書き出したのは20代半ばから。大阪文学学校で小説を学んだ後、同校卒業生で構成するグループ「せる」に参加し活動を続けている。これまで飲食店経営の傍ら、店の開店時間前や定休日に「自分のための趣味」として10作品ほど書いてきた鈴木さんだが、受賞したのは今回が初めて。「自分の中では大事件」と胸内を語る。
受賞作品の「ウロボロスの亀」は、「凡庸な人間」と「非凡な人間」、「起きている時間」と「夢の中」など相反する二つの世界が表裏一体となってグルグルと巡り続けることの永久性、無限性を感受する主人公の世界観が特徴的。書評では「若い人たちの世界を、工夫を重ねて一つの形にしているところがいい」(三田文学秋季号より)とされている。鈴木さんの知り合いのなりたさんは「あれ(ウロボロスの亀)を読んだとき、(鈴木さんが)ジャンプしたというか、脱皮したというか、そんな感じを受けた」と本の感想を述べる。
小説の設定舞台は大阪の下町。主人公の「ニム」が、かつて写真専門学校で同期だった「西田くん」の自宅ギャラリーに訪れることから話が始まる。鈴木さん自身、写真は小説と肩を並べるほどの趣味で、経営する居酒屋内にギャラリーを持ち定期的に自身の作品も含めた写真展示を行っている。「写真と比べ小説はもっと自由度が高いもの。まったくゼロから作り上げるコツコツ作業は大好き」と小説執筆への思いを語る。「小説は何作書いても自分の中で『これでいい』という完結がない。だから一生書いていきたい」とも。